アンドレア・ブランジ コレクション|Andrea Branzi Collectionは、イタリアのデザインブランド・キーブーが、20世紀イタリア・ラディカルデザインの中心的存在であるアンドレア・ブランジとのコラボレーションによって展開する、カーペット、クッションなどで構成されたコレクションです。
2023年10月9日に84歳で逝去したブランジを悼み、2024年10月のミラノでの追悼展示会「エクイリブリ・インスタビリ(Equilibri Instabili、不安定な均衡)」を機に、未発表作品を含む新コレクションが公開されました。
1. 「不安定な均衡」遺作コレクションが生まれた経緯
2023年10月9日、アンドレア・ブランジは84歳でこの世を去りました。
ちょうど1年後の2024年10月10日、キーブーのミラノ・ロフトには、彼のために集まった建築家、デザイナー、批評家、そして友人たちが集いました。
展示されたのは、ブランジがキーブーのために描きながら未発表のまま遺していた4つのコレクション、カーペット、クッション、陶器、そして金属製のオブジェです。
この夜、ジョバンノーニは「キーブーはイノベーションと研究への姿勢を改めて示しながら、デザインと建築の世界で最も輝いた才能の記憶を生き続けさせます」と語りました。
この「エクイリブリ・インスタビリ(不安定な均衡)」と名付けられたイベントは、ブランジが1979年から2023年まで雑誌「インテルニ(INTERNI)」に寄せた200本以上の論考を収録した書籍の出版と同時に開催されました。
遺作コレクションは、その本のタイトルと同じ哲学を体現しています。完成を目指さず、揺れ動き、問い続けること。それがブランジの姿勢でした。
2. ブランジのデザイン哲学:人間、自然、都市への眼差し
ブランジのデザインを理解するキーワードは「ネオプリミティビズム(新原始主義)」と「ラディカル」そして「都市」です。
1960年代のアーキズーム アソチャーティ以来、彼は「デザインはただの物語ではなく、思想であり、政治であり、人間の歴史だ」と主張し続けました。
このコレクションで繰り返し登場するモチーフは、人物の輪郭、顔、動物、植物、そして抽象的な地図です。
単純化された線で描かれたこれらのイメージは、ユダヤ的なアイロニーとも評された「スタイライズドな(様式化された)顔」の系譜に連なります。
ブランジにとって、線一本は問いそのものでした。
3. カテゴリ別アイテム詳細
1 カーペット|Carpet(全21点)
このカーペット群は、ジェネティック テールズ(Genetic Tales)という一つのコレクションです。
全15種のデザインに共通するのは、すべての作品に顔のモチーフが含まれているという点です。
ブランジのコンセプトは「遺伝学とデザインの関係、そして大量生産と人類の無限の多様性」。
人間の無限性という概念に向き合うために、「1組のカップルから始まる人類の集まり」を顔という最小単位の記号として描き続けました。
各デザインの名称はそれぞれの顔の見え方・構造・密度の違いを示す手がかりに過ぎず、具体的な読みは見る側に委ねられています。
展開サイズは以下の通りです。
・200 × 300 cm(大判長方形)
・140 × 200 cm(小型長方形)
・200 × 200 cm(正方形)
・100 × 200 cm(縦長長方形)
各作品解説
フローティング フェイス(ホワイト・ブラック)
サイズ:200×300 / 140×200 cm(各色)
白地または黒地から、輪郭だけで描かれた顔が浮かびあがります。
「浮かぶ(floating)」というタイトルが示すように、背景に固定されることなく漂う顔たち。コレクション全体のテーマである「人類の多様性」を最もシンプルに表現した作品です。
ホワイトとブラックの2色展開で、どちらも同じ構図を異なる印象で提示します。
ピープル 1(大・小)
サイズ:200×300 / 200×140 cm
「遺伝学とデザインの関係、大量生産と人類の無限のバリエーション」を問う作品とされています。
「1組のカップルから始まる人類の集まりという遺伝的進化の観点から、人間の無限性という概念に向き合った」それ以上の解釈は見る側に委ねられています。
マップ(大・小)
サイズ:200×300 / 140×200 cm
「マップ(地図)」というタイトルですが、実際には顔が有機的に配置された構成で、地理的な地図というよりも家系図(ファミリーツリー)のような広がりを感じさせるという見方ができます。
顔たちが線でつながれるように並ぶ様子は、血縁・系譜・記憶のネットワークとして読むことができます。
パレード(ホワイト・ブラック、大・小)
サイズ:200×300 / 140×200 cm(各色)
ジェネティック テールズ全作品と同様に顔のモチーフを含み、それが横方向に「行列(パレード)」として連なる構成です。
白地と黒地の2色展開で、同じ顔の行列が背景色によってどう異なって見えるかを提示します。
ステンシルズ(大・小)
サイズ:200×300 / 140×200 cm
ジェネティック テールズの他作品と比べると、対照的な印象を持つ見方ができます。
コレクション全体が顔の「生」を感じさせる中、ステンシルズにはその反対の意味、あるいは過去を連想させるという読み方も可能です。
ヒューマン シェルブス
サイズ:100×200 cm
顔を含む人物が「棚(shelves)」のように積み重なるかたちを描いた縦長の作品です。
マップと同様に、顔が構造を形成する構成で、「人間を層として積み上げられた存在」として見せているようにも映ります。
ファミリー ツリー
サイズ:100×200 cm
タイトルが直接「家系図」を示す縦長の作品。上から下(あるいは下から上)へと顔たちが連なる構成は、コレクション全体の「遺伝・継承・人類の多様性」というテーマを縦軸で表現しているとも読めます。
パープル ファミリー
サイズ:200×300 cm
紫を基調とし、顔・人物のモチーフが配置される大判カーペット。
コレクション内では比較的豊かな色彩を持つ作品です。
プリックリー ペア(正方形)
サイズ:200×200 cm
ウチワサボテン(Prickly Pear)と顔のモチーフを組み合わせた正方形カーペットです。
植物の構造と顔という異なる記号が重なり合う構成で、人間が遺伝子を受け継いで増えていく様子が描かれています。
スリー メン(正方形)
サイズ:200×200 cm
顔を持つ3人の人物を単純な線で描いた作品です。
様々な象徴を表す「3」という意味深な数字が使われています。どう読むかは見る側の自由で、ブランジはそれ以上の説明を加えていません。
ラビリンス(正方形)
サイズ:200×200 cm
迷宮(ラビリンス)の構造の中に顔のモチーフが織り込まれています。
迷宮という構造に何を読み込むか、都市?記憶?人生?想像が膨らみます。
フェイセズ オン レッド(正方形)
サイズ:200×200 cm
鮮やかな赤地に顔が浮かびあがります。
コレクションの中で最も強い色彩対比を持つ一点です。
ドッグ イエロー(長方形)
犬の輪郭が面を分割する大きな背景をつくり、その色彩によって構造が浮かびあがり、その構造から人間の顔のシルエットが枝分かれして現れているデザインです。
犬という別の生命の輪郭が、顔というコレクション全体のモチーフを内側に生み出す構造は、ジェネティック テールズの中でも特異な一点です。
? クッション|Cushion(全4点)
クッション コレクションは「ジェネティック テールズ」の一部をなす4点の両面クッションです。
カーペット コレクションで繰り返されてきた人間の顔のモチーフを、45 × 45 cmというより身近なサイズでお手元に届けます。
プリックリー ペア クッション
カーペットと同じウチワサボテンと顔のモチーフ。大判カーペットの構成をソファや椅子のうえで感じることができます。
フェイセズ オン レッド クッション
赤地に白い顔。コレクションの中で最も強い色彩対比を持つ構成をクッションのスケールで。
ドッグ クッション
犬のモチーフを含む作品。公式説明によれば、カーペット コレクションで繰り返されてきた人間の顔のモチーフが、ここでもクッションのフォーマットで展開されています。
ピープル クッション
人物を含む構成のクッション。大判カーペットの「人類の多様性」というテーマを、手元に収まるサイズで体験できます。
まとめ
キーブーのアンドレア・ブランジ コレクションは、イタリア・ラディカルデザインの旗手が遺した未発表作品を含む、カーペット・クッションなどで構成されたコレクションです。
顔・人物・動物・植物を様式化した線で描くモチーフが全体を貫き、ブランジのネオプリミティビズム哲学が日常のインテリアとして届けられます。
これは商品のコレクションであると同時に、60年以上のデザイン思想の記録でもあります。
デザイナープロフィール
アンドレア・ブランジ|Andrea Branzi(1938-2023)
1938年11月30日、フィレンツェ生まれ。1966年、フィレンツェ大学建築学部を卒業。
同年、ジルベルト・コレッティ、パオロ・デガネッロ、マッシモ・モロッツィとともに前衛デザイン集団「アーキズーム アソチャーティ」を創立。
イタリア・ラディカルデザイン運動の中心的担い手として、従来の「完成したデザイン」概念を批判的に解体する活動を展開しました。
1976年には「スタジオ アルキミア」に参加し、後にエットレ・ソットサスのメンフィスグループとも連携。1982年にはドムス アカデミーを共同設立し、文化局長・副学長として国際的なデザイン教育に貢献しました。ミラノ工科大学では製品デザイン学科の主任教授として後進の育成にも携わっています。
アレッシ、カッシーナ、ザノッタ、キーブーなど世界的なブランドと協働し、家具・プロダクト・建築の領域で多数の作品を発表。「デザインの歴史は物の歴史ではなく、思想・宗教・政治・人の歴史だ」という信念のもと、生涯にわたって設計思想を言語化し続けました。
2023年10月9日、ミラノで逝去(享年84歳)。
ミラノのトリエンナーレ財団理事長・建築家ステファノ・ボエーリは「人間の空間についてのラディカルな思考の巨人、イタリアンデザインの洗練された歴史家、皮肉を帯びながら他の宇宙と並行世界を自在に往来できる幻視の芸術家」と追悼しました。
キーブーのステファノ・ジョバンノーニは30年以上の盟友として、ブランジが遺した未発表作品を遺作コレクションとして世に送り出すことを決断。
「ブランジは2016年のキーブーとの協働について『デザイン界がおそらく必要とする冒険だ』と語っていた」(ウォールペーパー誌インタビューより)。その冒険の続きが、この遺作コレクションです。